最高裁判所大法廷 昭和34年(あ)2414号 判決 1961年4月26日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人竹沢哲夫の上告趣意第一点について。
所論は、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律二条、一一条は、契約自由の原則をおかし、憲法二九条、一四条に違反するというのである。
しかし、右法律二条、一一条制定の目的を考えるのに、預金の受入等の受信業務は、それが一般大衆を目的とするときは、その一般大衆から財貨を受託することになるのであるから極めて公共的色彩が強く、したがって、その契約の履行には確乎たる保障がなければならないとともに、その業務がひとたび破綻をきたすようなことがあれば、与信者たる一般大衆に不測の損害を及ぼすばかりでなく、ひいてはこれら大衆と取引関係に立つ者にまでつぎつぎに被害を拡大して、社会の信用制度と経済秩序を撹乱するおそれがあり、これを自由に放任することは、預金等を為さんとする一般大衆の地位を保護し、社会の信用制度と経済秩序の維持と発展を図る上に適当でないので、既に銀行法等他の法律によって、免許ないし認可を受けた金融機関等のみに行わせ、それ以外の者がこれを営むことを禁止しているのであるが、なおこの禁止の趣旨を徹底させるため、本法二条で、預金の受入等の禁止の範囲を明確にして、他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業としてこれを行なってはならないと定め、同一一条で、その違反者に対しては刑罰を科することにしたものであると解される。
されば、右法律二条、一一条は、公共の福祉を維持するため必要でありかつ合理性のある措置として是認されなければならない。また契約の自由といえども、公共の福祉維持のため、必要にしてかつ合理的な範囲内において制限を受くべきものであることはいうまでもないところであるから、所論憲法二九条違反の論旨は理由がない。
なお、所論のうち、右法律二条、一一条が憲法一四条に違反する旨主張する部分は、その違反の具体的理由を明示しないから、上告理由として不適法である。
同第二点について。
所論は違憲をいうが、その実質は原審で主張判断のない事項に関する単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、所論法律二条二項にいわゆる「不特定且つ多数の者」とは、一般大衆を指称するのであり、そして同条は、その一般大衆を目的として同条所定の行為をしてはならない旨規定しているのであるから、たまたまその中に少数の親族を含んでいたからといって、あえてこれを除外すべきものではないと解するのが相当である。原判決の是認した第一審判決の確定する事実によれば、本件所為は一般大衆を目的としてなされたものであることが肯認されるから、所論はひっきょう独自の見解に帰し、採ることを得ない。)
同第三点について。
所論は、単なる法令違反の主張であるばかりでなく、包括一罪として認定された本件所為につき併合罪を主張するものであり、被告人に不利益な主張をなそうとするものであるから、上告理由としては許されない。
よって、刑訴四〇八条、一八一条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助)